白神岳縦走・岩木山登山 2011 山行レポート


○日程:2011年9月24〜26日
○コース概要:白神岳縦走: JR白神岳登山口駅〜二股分岐〜まて山〜白神岳(泊)〜大峰岳〜崩山〜王池バス停 =JR十二湖駅
        岩木山  : 弥生バス停〜6合目姥石〜岩木山山頂〜焼止まり避難小屋〜百沢温泉前バス停
 

○白神山地は青森県と秋田県の県境にまたがる約13万haの広大な山地で、その中に世界最大級のブナ林がある。1993年に 日本で初めて世界自然遺産に登録された地域は、一般登山が可能な緩衝地域と入山手続きが必要な核心地域とに分けられる。

今回の登山コースは日本海に沿って走るJR五能線の駅から白神山地の西の端にある白神岳に登り十二湖へ下る縦走路で、 緩衝地域を歩くコースだ。このコース内にはテントを設営できる場所は無いので、山頂の避難小屋で一泊することにする。 標準コースタイムは1日目の登りが5時間、2日目の下りが約7時間である。

一方、岩木山は白神山地の北側の津軽平野の中央に聳える独立峰である。周囲からの登山コースは5つほどあるが、 定期バスが利用できる登山口は南側から東側にかけての3つで、今回は東側の弥生登山口から登り、南東側の百沢温泉に 下るコースを歩くことにした。弥生登山口から山頂までは標高差約1500m、標準コースタイムは登り4時間15分、下り3時間 15分である。




○9月24日(1日目)白神岳 登り

夕方大阪駅を出発した寝台特急「日本海」は日本海に沿って北上し、翌日の朝、東能代駅に到着する。ここで電車をJR 五能線に乗り換え、弘前に向かう列車に乗る。暫くすると前方に白神山地の山並みが迫り、列車はその山並みを避けるように 左にカーブして狭い平野部を海岸伝いに走るようになると、ほどなく白神岳登山口駅に到着する。天気は快晴である。
 白神岳登山口駅は無人駅だ。電車を降りた客は自分一人である。地図を見ながら登山口に向かって歩いていると、熊鈴を 忘れたことに気が付いた。老婦人が2人いたので、最近熊は出ましたか?と聞いてみると、
 「今年になってから熊が出たね。1人怪我をした。」というような意味のことを言う。
 「いつ頃ですか?」
 「わからん」
 ちょっとビビリながら、熊鈴の代わりに口で「リンリン」と叫ぶしかないかな〜?などと考えながら歩く。線路を渡って 暫く歩くと白神山荘がある。「山バッチ」あります。という看板が掛かっている。  
           JR五能線白神岳登山口駅                  ガイドハウス白神山荘
  
駅から45分で登山口に到着。登山口には大きな駐車場と休憩室とトイレのある立派な建物がある。ここで、男女2人から アンケートにご協力をお願いしますと言われた。林野庁?からのアンケートは世界遺産の白神山地の入山に伴う一般常識が あるかどうかを問うている。この時は自分が歩くルートが緩衝地域か核心地域か分からなかったため、トンチンカンな答え を書いてしまった。登山道はこの建物の左側から伸びていて、右からの舗装道路に繋がる。更に上に行くと旧登山口がある。 ここで登山届けを出す。届けの用紙はなく、ノートに記入する方式だ。  
           白神岳登山口                                旧登山口
  
 旧登山口から先は舗装のない普通の登山道になる。熊に逢いたくないので口で「リンリン」言いながら進む。登山口から 小一時間で二股分岐に到着。白神岳への登山道はここで二股コースとマテ山コースに分かれる。今回はマテ山コースを行く。 何度か小さな沢を渡ると「最後の水場」と書かれた札がある。これ以降は水場がないため、ここで水筒を満タンにする。  
           二股分岐                                最後の水場
  
最後の水場から1時間ほどでマテ山山頂に到着する。マテ山のマテの字は画像にあるように難しい漢字が当てられている が、この名の由来はこの付近からマテ貝が出たので付いた名前らしい。この字はマテ貝のマテである。山頂に展望はない。 ここで昼食を取り、更に2時間登ると稜線に出た。この2時間の間に、上から沢山の登山者が下ってきた。殆どの登山者は 先ほどの登山口の駐車場に車を止めて白神岳をピストンするらしい。稜線の分岐が十二湖分岐で、左に行くと十二湖、右に 行くと白神岳山頂である。  
            マテ山山頂                               十二湖分岐
  
山頂付近には立派なトイレがあり、そのすぐ横に避難小屋がある。避難小屋の中は3段になっていて、全部で30名程度が 宿泊可能だ。到着した時には一番上に先客が2人いて、上の方が暖かそうだったので自分も一番上に登り、早々と夕食の 準備を始める。床には銀マットが全面に敷き詰めてあり、狭いが快適な空間になっている。  
            トイレ                                山頂避難小屋
  
 今回も無洗米を炊くことにする。焚き火缶に無洗米と水を入れてガスコンロの上で炊くと暫くしていい香りがしてくる。 その間、ビールを飲みながら先客と話をする。先客は昔の同僚で今は宮城と青森に別々に住んでいるとのこと。ご飯が炊けた ので今度はレトルトカレーを暖める。カレーを食べながら今度はお湯を沸かして焼酎に使う。先客に頂いた鰺ヶ沢の烏賊を 食べていると日没が近づいたので再び山頂へ向かう。ぼんやり見えていた岩木山が夕暮れになってハッキリ見えてきた。  
            白神岳山頂                            夕暮れの山頂付近と岩木山(右)
  
 


○9月25日(2日目)白神岳 下り

 朝4時に起床。朝食を食べ、出発準備をして6時前に避難小屋を出発する。笹の葉に朝露が付いているのでカッパを着て スパッツを着けようとしたが、忘れてきたらしくスパッツが見あたらない。十二湖分岐から十二湖への道は今までの道とは 違い、殆ど登山者が通らない道らしく、笹が覆い尽くしている。暫く歩くとびしょ濡れのカッパのズボンから垂れた水が登山 靴の中に入りすぐに靴の中もびしょ濡れになる。どうしようもないので諦めて「リンリン」叫びながら前進する。  
            朝の白神岳山頂付近                   十二湖への道から白神山頂を振り返り見る
  
 白神岳山頂からアップダウンを繰り返しながら2時間ほどで大峰岳に到着。ここまで殆どと言っていいくらい展望なし。 大峰岳の山頂も展望はない。小休止の後、再び下り気味にアップダウンを繰り返すと1時間半ほどで崩山に到着する。ここ までもほぼ展望なし。ところが、崩山を過ぎて暫くすると展望が開けた。十二湖方面の海と海岸と平野が見える。  
            大峰岳                            崩山山頂
  
 崩山からの下山道はまともな登山道である。十二湖から崩山に登る人が少なからず居るらしい。今回も3人の登山者に 出会った。下から登ってきた登山者「濡れませんでしたか?」と聞くと、「大丈夫でした」と言うのでここでカッパを脱ぎ 十二湖に下る。十二湖は崩山山頂から数えた湖の数が名前の由来だそうだが、実際には33の湖があるそうだ。十二湖に到着 するとすぐ左側に一番人気の青池がある。青池は水の色が不思議な青い色で、周囲の緑と対照的で神秘的な感じがする池だ。  
            崩山通過地点からの眺め                     十二湖の一番人気「青池」
  
青池から砂利道を下るとお土産などが売っているお店に到着。そこからは舗装道路となり、いくつかの池を通り過ぎると ビジタセンターがある。この中を見学しているとお腹がすいてきたので、王池の横の食堂で昼食を食べる。そこから定期バス で十二湖駅まで下る。このバスの運転手さんは観光を兼ねて景色のいい場所を解説しながら写真撮影のため止まってくれる。 今回は日本キャニオンで止まってくれた。観光案内をする定期バスは日本でもここだけだそうだ。  
            日本キャニオン                          十二湖の定期バス
  
 十二湖駅でリゾートしらかみの指定席券を弘前駅まで購入し、20分ほど待って到着した列車に乗る。この電車は全席指定 である。車内のイベントスペースで行われる津軽三味線や津軽弁の昔話を聞きながら、眺めの良い海岸線を見るのが楽しい。 当然、手は缶ビールを握っている。  
            JR五能線十二湖駅                        JR五能線リゾートしらかみ
  
暫くして千畳敷駅に停車。15分の間に海岸に降りて景色を見る。深浦町の千畳敷海岸は1792年の地震で岩棚が隆起して できた地形だそうだ。  
            千畳敷海岸                           リゾートしらかみの車内
  
電車は海岸線を離れると津軽平野の中に入る。ここから弘前までは岩木山をぐるっと一周するように電車が走る。津軽平野 の中心にある五所川原駅は津軽鉄道への乗り換え駅でもある。リゾートしらかみはここでも暫く停車する。やがて電車は 弘前駅に到着。明日の食糧を買い込んで今夜の宿に向かった。
            五所川原駅の津軽鉄道                            電車から見える岩木山
  
 


○9月26日(3日目)岩木山へ

 ホテルの朝食は朝7時からなので、7時丁度に食堂に駆け込んで朝食を食べる。7時15分にホテルを出発して弘前駅に20分に 到着。弥生登山口へのバスには沢山の人が乗っていたが、弥生のバス停で下車したのは自分一人だけ。地図を見ながら登山口 に向かって歩き出す。今日もいい天気のようだ。
 民家を抜けると左右にリンゴ畑が広がる。収穫の終わった木もあれば、まだたわわに実を付けている木もある。袋がかかって いるのとかかっていないリンゴの違いは、名前に「サン」が付くかどうかでわかる。「サン」が付けば袋無し。袋をかけた方 が皮の色が綺麗になるが、袋をかけない方が味が良いとの説明をリンゴ専門店で聞いた。今は袋をかけない「サンつがる」の 収穫が盛りである。
            弥生バス停から見た岩木山                         1合目登山口
  
 リンゴ園の中を抜け、道が森の中に入るとすぐに1合目登山口の標識がある。ここで舗装道が終わり、一般登山道となる。 道ははっきりしているし標識もちゃんと整備されているが、人があまり通らない道のようだ。今日は「リンリン」唸るのを 止めてラジオを鳴らしながら歩くことにする。電波状態が良く青森のラジオ放送局の番組が綺麗に聞き取れる。最初は なだらかな道だったが、3合目を過ぎた辺りから傾斜が急になってきた。この辺りの森はほとんど全て明るいブナ林である。 かつて東北地方の森はほとんど全てブナ林だったと誰かが言ってたけれど、それもあながち嘘では無いような気がしてくる。  
            4合目                               6合目
  
 ブナが少なくなり、笹が増え、やがて森林限界が近づくと展望が開ける。やっと見えた山頂方向にはガスがかかっていて がっかり。しかし、登っている内に次第に晴れてくる。  
            大岩                                 山頂方向を見る
  
 昭文社の地図には9合目から山頂までは道がわかりにくいので注意と書いてある。確かにわかりにくいが、それでも わずかに踏み跡があり、それを忠実に辿ると山頂に到着する。13時過ぎに岩木山山頂着。山頂には数人の登山客がいる。 一人の登山者が、弥生コースから登ってきたという私に「あのコースは年に数人しか歩かないと思うな〜」と言った。 なるほど道が荒れているはずだ。
 山頂にはトイレと避難小屋と社がある。風を避けて西側に移動し、山頂標識の横で昼食を食べる。下を見ると、すぐ近く にスカイラインの終点とリフトが見える。リフトの終点から山頂までは本当にすぐ近くだ。  
            9合目                                岩木山山頂のトイレと避難小屋
 

            山頂の社                            岩木山山頂標識
  
 
 昼食と山頂からの眺めを楽しんだ後、百沢コースを下ることにする。ガレ場の階段を下ると鳳鳴ヒュッテがある。この ヒュッテは昭和39年1月に秋田の大館鳳鳴高校の生徒4名がここで遭難したことを契機として建てられたとヒュッテの横に 記されている。更に下ると小さな池がある。この池の横には種蒔苗代と書かれた標識が立っている。
            山頂からリフト終点方向を見る                     鳳鳴ヒュッテから見た山頂
  
 整備された歩きやすい道をどんどん歩き、焼け止まりヒュッテの前を飛ぶように通過して、山頂から2時間ほどで百沢 登山口に到着。スキー場の横の道を歩き、キャンプ場の横を抜けて舗装道路に出る。17時前に百沢温泉のバス停に到着。 30分ほどバスを待って弘前のホテルに戻った。  
        焼け止まりヒュッテの看板               百沢登山口                          
  

            スキー場から見た岩木山               百沢温泉バス停                       
  


 今回は世界自然遺産の白神岳と日本百名山の岩木山というメジャーな山にもかかわらず、白神岳の登りと岩木山の山頂を 除いて山の中では登山者に会うことは少なかった。反省点としては熊鈴とスパッツを忘れたことであるが、熊鈴を忘れた のは、自分の意識の中で、今回はメジャーな山だから、沢山人がいるから熊に逢うことはないだろうと、勝手に思いこんで いたのが理由かも知れない。どんな山でも一人で登る以上は最初から最後まで誰にも会わない可能性があることを認識すべき だと思った。

ところで、山に行った1週間後の10月4日に、10月3日に岩木山と八甲田山が初冠雪したというニュースを聞いた。雪山の 装備は一切持っていなかったから、山行の日が1週間遅れていたら山頂までたどり着いたかどうか分からない。たまたま 雪が降らなかったから、たまたま熊に逢わなかったから登れたというラッキーな山行であったのかも知れない。とはいえ、 晴天続きで山を堪能した3日間だった。



○実測コースタイム
  9月24日
  JR白神岳登山口駅9:00〜登山口9:45〜二股分岐10:40〜最後の水場11:30〜マテ山(12:24〜12:56)〜十二湖分岐14:35〜白神岳14:53
  9月25日
  白神岳5:53〜大峰岳8:02〜崩山9:34〜青池11:13〜ビジタセンタ11:53〜王池バス停
  9月26日
  弥生バス停8:12〜登山口8:50〜6合目姥石11:09〜岩木山山頂(13:05〜13:57)〜鳳鳴ヒュッテ14:19〜
 焼止まり避難小屋15:05〜姥石15:34〜登山口16:06〜百沢温泉前バス停16:40
  

Photo and Report by 百 inserted by FC2 system